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2025-05-06 06:10

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黄昏の岸 暁の天 3章4~

2010-08-08 22:11


   4

 李斎らは、文州の乱が謀反の一部である証拠を──あるいは、そうでない証拠を|掴《つか》もうとして躍起になったが、成果は遅々として上がらなかった。特に文州と強い|誼《よしみ》を持っている者もおらず、格別、奇妙な振る舞いをしている者も見あたらない。王宮の中で、不審な人影を見た、と言う声が上がることはあったが、これはもう噂以上に、海のものとも山のものとも知れなかった。そして、その最中に、あの|蝕《しょく》が起こったのだった。
 李斎は路門から|仁重殿《じんじゅうでん》のほうへと走った。辺りは惨憺たる有様だった。楼閣の残骸を避けているところに駆け寄ってくる数人の姿と出くわした。
「ああ、李斎──」
「|臥信《がしん》──。台輔は」
「分かりません。私もそれを確かめようと思って」
 言いながら、さらに駆ける。仁重殿のある一郭は、今や|瓦礫《がれき》の山だった。辛うじて残った建物も、|悉《ことごと》く西の一郭が|潰《つぶ》れている。正殿である仁重殿の建物そのものも例外でないのを見て取って、李斎は背筋が冷えた。
 |庭院《なかにわ》を進んでいると、声がした。見ると、半ば傾いた建物の中から、泰麒づきの大僕が這い出してくるところだった。背中には|正頼《せいらい》を担いでいる。
「|潭翠《たんすい》──台輔は」
 叫んで駆け寄る。
「分かりません。お側にいなかったのです。いったい何が起こったのですか」
 表情に乏しい男の、血相が変わっていた。頭から|埃《ほこり》と壁の欠片を|被《かぶ》り、細かな傷を無数に作っている。|担《かつ》がれている正頼のほうも同様だったが、とりあえず大きな怪我はなさそうだった。どこか、瓦礫の中から馬が悲痛な声で|嘶《いなな》くのが聞こえた。
「なぜお側を離れた。──最後にお見かけしたのはどこだ」
 李斎が詰め寄ると、|潭翠《たんすい》は首を振る。
「正殿においででした。私は正頼に呼ばれて、その場を小臣に任せて離れたんです」
 地鳴りはいつの間にか|熄《や》み、辺りには呻き声と悲鳴が満ちていた。救済を求める人々の声が聞こえていながら、その彼らを助けるより先にしなければならないことが、李斎らにはあった。泰麒を捜さなくては──思っていると、遠くから李斎らを呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、やはり数人の手勢を連れた|阿選《あせん》がやってくるところだった。
「台輔は」
 第一声、そう訊いてきた阿選は、潭翠らと大差ない有様だった。正殿らしい、と臥信が答え、正頼を兵卒に任せ、李斎らは潭翠を伴って奥へと向かった。凍るような思いで正殿の中を探し、瓦礫の間を探したが泰麒の姿は見えなかった。正殿ばかりでなく、付近のどこからも見つからない。夜を徹して続けられた捜索は甲斐もなく、そして、文州から飛んできた|青鳥《しらせ》がこの捜索を否応なく棚上げにしてしまったのだった。
 青鳥がもたらした報せによって、国府の混乱は極に達した。
 王宮が|鳴蝕《めいしょく》によって受けた被害は甚大で、官吏の多くが負傷し、行方不明になった。さすがに|燕朝《えんちょう》のことだけはあって、その場にいた官吏のほとんどは仙だったから死亡者こそは少なかったが、さすがにそれでも皆無とはいかなかったし、仙籍に入れられることのない|奚《げじょ》や|奄《げなん》からは甚大な犠牲者が出た。国政は、官吏の負傷と混乱によって完全に止まった。誰もが、何をどうすればいいのか分からなかった。
「いったい、主上はどうなさったのです」
 李斎の問いに答えたのは|芭墨《はぼく》だった。
「|霜元《そうげん》の書状では、主上は戦闘の最中に姿を消してしまわれたとか。霜元らがお捜し申し上げたが、見つからなかった。分かるのはそれだけで、具体的に何が起こったのかさっぱりわかり申さぬ。とにかく霜元だけでも一旦戻るよう、指示をいたしたが、青鳥が着いて霜元が戻るまでには、どんなに急いでも十日近くがかかるだろう」
「文州の様子は」
 訊いたのは|巌趙《がんちょう》で、これには芭墨は首を横に振った。
「平定したわけではないようだ。睨み合ったまま膠着しておるらしい」
「では……どうするのです?」
 訊いたのは|花影《かえい》だったが、これに答えられる者は誰もいなかった。どうすればいいのか分かっている者は勿論、これに答える権限を持っている者がいなかったのだ。王が不在であれば、その穴を埋めるのは|冢宰《ちょうさい》の職分、しかしながら冢宰の|詠仲《えいちゅう》は鳴蝕によって重傷を負い、未だ起きあがることも話をすることもできない。王の補佐となるべき宰輔も姿が見えず、王の代わりに諸官の意見をとりまとめ、決を下す者が朝廷には存在しなかった。
「こういう場合はどうなるのです? 官を指揮するのは……」
「慣例によれば、天官長が六官の|首《おびと》として冢宰を兼務する」
 |芭墨《はぼく》の言に、その場にいた者たちは沈黙した。天官長の|皆白《かいはく》は鳴蝕の当時、仁重殿に近い三公府にいたことが確認されている。王の指導役、宰輔の相談役とも言える三公の|府第《やくしょ》は、甚大な被害を受けて倒壊した。三公とその補佐を行う三|孤《こ》、六名のうちの二名は死亡し、一名が重傷、残る三名と皆白の四人は、今に至るも発見されていない。
「かくなるうえは、天官に次ぐ官、地官長に働いてもらうしかないと思うが」
 芭墨が言うと、地官長の|宣角《せんかく》は|頭《かぶり》を振った。
「とんでもございません。私は到底、その器にありません」
 固辞する宣角に、あえて勧める者はいなかった。宣角は温厚な若い文官で、驍宗軍とは無関係に瑞州から抜擢された官吏だった。誠実な人柄だが、経験も浅く、しかもこの非常時に軍のことは分からないでは通らない。それでなくても、朝廷は武断の朝廷、残された主たる官吏の多くが驍宗軍の|麾兵《ぶか》であることを思えば、望むらくは驍宗軍の麾兵、最低でも武官でなければ朝廷を|束《たば》ねきれないことは確実だった。
「|正頼《せいらい》殿ではいかがでしょう」
 宣角は言ったが、これに応える者はいなかった。正頼も負傷し今は休んでいたが、さほどの怪我ではないらしい。身体的にも問題はなく、しかも正頼はもともと驍宗軍の軍吏、麾兵であると同時に名うての文官でもある。その意味では官を率いるに最適の人材で、その場にいた誰もがそれを承知していたが、それでも正頼に、という声はどこからも上がらなかった。
「……主上がお戻りになるまでの間、誰かが朝廷を束ねると言うことであれば、正頼でも良いだろう。だが、これはそう言う問題ではあるまい」
 芭墨の言に、誰もが頷いた。誰が官吏の代表になるのか、という問題ではない。ただそれだけのことなら、正頼でも芭墨でもいい。宣角でも李斎でも──。問題はそう言う次元になかった。戴には今、王がいない、というところにあるのだ。
 驍宗の安否が分からない。もしも驍宗が|身罷《みまか》ったのであれば、国には次の王が必要だった。誰が次の王になるべきなのか──これはそういう、甚だしく重大な問題なのだった。
 玉座が空けば、次王が登極するまで冢宰がそれを埋める。だが、重傷を負った詠仲はその任に当たることができない。天官長はいない。その他の者では、仮にとはいえ、玉座を埋めるだけの後ろ盾に乏しい。慣習と天の条理、どちらの後ろ盾もない者が朝廷を束ねることは不可能に近い。それだけの威信が得られない。
「とにかく、|冢宰《ちょうさい》の代わりを一刻も早く立てることではないですか」
 言ったのは春官長の|張運《ちょううん》だった。
「人心を|束《たば》ねるに足る人物を推挙して冢宰に立て、|仮朝《かちょう》を開かないことには」
「それは順番が違うだろう」
 |巌趙《がんちょう》が努声[#入力者注:「努声」ってなんだ…]を上げた。
「驍宗様は姿が見えないだけだ。霜元も消えたと言って寄越しただけで、死んだとは言っていない。安否の確認が先だ」
「ちょっと待ってくださいまし」
 |花影《かえい》が声を張り上げた。白い顔は不安と緊張でさらに青白くなっている。
「……こういう場合はどうなるのでございます? 誰か慣例をご存じでしょうか」
 こういう場合、と呟く声に、花影は頷いた。
「不吉なことも申しますが、どうぞ御容赦ください。たとえば主上が|身罷《みまか》られた場合にはどうなるのですか?」
「それは台輔が次の主上を──」
 答えた宣角に、
「けれども、その台輔のお姿が見えません」
「台輔が亡くなられておられれば、空位ということになります。慣例通り、冢宰が|仮王《かおう》として立って仮朝を開くのが順当かと。そのために、|詠仲《えいちゅう》殿の具合がよろしくないのであれば、新たに冢宰を任じる必要があると思われます」
「誰が任じるのです?」
 宣角は絶句した。
「──冢宰を任じる権をお持ちなのは、王と台輔でございますね? 主上がおられないのなら、台輔がこれを行う。けれども主上がおられず、台輔もおられない、しかも冢宰も任に就けない……そういう例が、かつてあったのでございますか?」
「ないと思う」
 芭墨は苦々しげに答えた。
「いや、王と冢宰が時を同じくして|斃《たお》れた例はあるだろう。その時、たまたま冢宰も運命を同じくした例もあるだろうが、その場合は偽王が立つ。謀反あって王が宰輔共々|弑《しい》され、冢宰、天官長もまた|屠《ほふ》られた、そういう場合でなければ、ここまで見事に朝廷を束ねるべき者が欠けるものではない」
「冢宰は亡くなられたわけではありません。重傷とはいえ、意識だっておありになる」
 宣角は声を高くした。
「冢宰に|御璽《ぎょじ》を預け、冢宰自ら次の冢宰を任じていただくことはできるはずです」
「冢宰が御璽を預かることができるのは、台輔がそれを任じた場合だけだ。その台輔がおられないのに、どうやって冢宰に|御璽《ぎょじ」を預けるのか」
「そもそも主上が亡くなられたのであれば、御璽そのものが効力をなくす。その場合は、|白雉《はくち》の足が必要だ。白雉の足であれば、六官三公の推挙によって、新たに冢宰を任じることができる」
「だから、主上が亡くなられたとは限らぬ。まず安否を確認し、主上と台輔の行方を国を挙げて探さねばならぬ」
「では訊くが、その挙国の事業を行う主体は誰なのか。官を束ねる者なしに、国を挙げて動くことが適うとお思いか」
 議場は一瞬のうちに混乱の中に投げこまれた。李斎はその片隅で呆然としていた。王が|斃《たお》れた例はある。宰輔が斃れた例もある。だが、その双方の行方も安否も分からないなどという例が、これまであったとは思えない。一方だけでも無事に残れば、その場合どうするかの慣例はあろう。だが、双方ともおらず、しかも死んだとは限らないという、あまりに曖昧な現状をどうすればいいのか。
「とにかくまず、|規《のり》を無視しても主上の安否を」
 誰かが声を張り上げたときだった。
「主上は亡くなられた」
 静かな声が割って入り、議場は水を打ったように静まった。李斎が声のほうを振り返ると、議場の入り口に|阿選《あせん》が立っていた。これまでの混乱が知れると言うものだ、誰も阿選がその場にいなかったことに気づいていなかった。
 阿選は一同を見渡し、掌を差し出した。その掌には、鳥の足が載っていた。
「|僭越《せんえつ》とは思ったが、何よりまず主上の安否を確認することが大事であろうと愚考して、|梧桐宮《ごどうきゅう》を|訪《おと》ない、|二声《にせい》宮に参じさせていただいた」
 議場に呻き声が交錯した。阿選はごく静かに言った。
「白雉《はくち》は落ちておられた。慣例に従い、足を切ってここにお持ちした」

   5

 李斎が言葉を切ると、|堂室《へや》にいた五者は五様に声を漏らした。
「それは……」
 陽子の声に、李斎は頷いた。
「白雉が落ちたと言うことは、王が死んだことを意味します。私たちは絶望の底に突き落とされたようなものでした。──あのとき、その場にいた者たちにとって、阿選の言を疑う理由は、どこにも存在しなかったのです」
 驍宗の、かつての同輩。双璧と呼ばれ、公私に|亙《わた》って親しかったとも聞いていた。革命の後も、驍宗は|阿選《あせん》を|篤《あつ》く遇したし、驍宗の麾下も阿選には一目を置いていた。阿選もまたこれらの信頼によく応えていたし、泰麒までもが|懐《なつ》いているように見えた。
 なんの懸念、波風もなかった水面から、唐突に阿選は姿を現したのだった。

 議場はしばらく静まりかえった。誰もが衝撃のあまり、声を発することができなかった。その思い沈黙を割ったのは、やはり阿選だった。
「ともかくも、王宮で被災した者たちの救済が必要だと思うが、いかがだろうか。負傷した官吏は勿論、|奄《げなん》|奚《げじょ》を加療するための場所が必要ではないだろうか。外朝にでも加療院を設けることが急務だと思うが」
 |宣角《せんかく》は頷き、そしてふいに顔を上げた。
「そう言えば、|鴻基《こうき》の街はどうなったのでしょう」
「無事のようです」
 これもまた、答えたのは阿選だった。阿選はいち早く手勢を市民救済のために向かわせ、鴻基の市井にはさしたる被害のなかったことを確認していた。雲海の上で起こった蝕は、雲海に遮られて下界には届かなかったらしい。とにかく、被災した官吏や奄奚のための加療院を設置することが書面にされ、そこに白雉の足が押捺された。その段になって、誰かが、印影の消えた御璽を保管しておく必要を思い出したが、これについても、すでに阿選が|麾兵《ぶか》を向かわせていた。しかしながら、正寝も被災を免れず、御璽は散乱した瓦礫の間に紛れこんだと見える。至急探させている、とのことだった。
 ──つまり、他の官がここで|徒《いたず》らに|狼狽《ろうばい》していた間に、阿選だけがやるべきことを把握し、それを行動に移していた、ということだった。
 白雉の足は、王亡き後は、御璽である。それは誰かが保管せねばならなかったし、本来ならその任に当たるべき宰輔はおらず、宰輔がいないとき、代わってその責を負う三公も、補佐役となる三孤を含め、誰一人いないという有様だった。|冢宰《ちょうさい》も負傷して寝付いている。王宮の中は言うに及ばず、事態は混乱を極めている。この激変に対して、決裁しなければならない文書は無数にあった。その全てに白雉の足は必要で、誰かがそれを保管すると同時に、文書にそれを|押捺《おうなつ》せねばならなかった。
 白雉の足を持ち帰った阿選が、その任に就くことは、あまりに自然なことに思われた。誰も異を唱えなかった。自分たちがただ狼狽していた間に、行うべきを行っていた将軍、国は非常時にあり、文官よりも武官が指導者になることが望ましい。そもそも朝廷は武の王朝で武官に対して親和力が強く、しかも阿選はもともと驍宗と並び称されてきた逸材だった。阿選もまた次王として嘱望されていた。驍宗自身も登極してからでさえ、阿選には一目を置き、篤く遇してきた。──そのことを誰もが思い出した。
 驍宗の敷いた道は武断の道、いまさら冢宰やその他の者のような文官が、驍宗の代役を務めるわけにもいかない。王都に残された武人といえば、|巌趙《がんちょう》に|臥信《がしん》、そして|李斎《りさい》の三名だったが、巌趙も臥信も叩き上げの武人で施政者に無垢とは思われなかったし、李斎も出自は一州師の将軍でしかない。|驕《きょう》王の許でも禁軍将軍を務め、政にも深く関わってきた|阿選《あせん》が、とりあえず驍宗の後を引き継ぐことは、思いついてみればこの上なく妥当なことに見えた。この場はとりあえず阿選に任せ、非常時が過ぎ、事態が落ち着いたところで改めて朝廷を編成し、|仮朝《かちょう》を開けば良い──誰もが何となく、そのように考えた。
 誰が言い出すでもなく、白雉の足は阿選が保管することになった。決裁すべき文書が山のように阿選の許に持ちこまれ、それを|捌《さば》いていく阿選は、自然、内殿に留まることになった。誰もそれに違和感を感じたりはしなかった。
 驍宗を捜索し、文州を治めるために臥信が文州へと派遣され、代わりに率いる将を失った阿選軍が呼び戻されることになった。そして、王宮に異変があるのを|嗅《か》ぎつけたか、李斎の郷里になる承州で乱が起こった。李斎は急遽、承州へ旅立つことになったのだった。

「李斎──出陣とか」
 李斎の許に花影が訪ねてきたのは、明後日に出立を控えた深夜のことだった。
「ええ。承州ならば、私が行くのが適任でしょう。承州の地の利に通じているから」
 そうですね、と同意した花影はしかし、いつものように不安げで、ひどく心細げにしていた。まるで今生の別れのように李斎の顔をまじまじと見る。
「心配は|要《い》りません。私は承州のことなら熟知しているし、承州師には知人、同輩も多い。文州ほどの規模の乱でなし、さほどに時間を掛けず、片づけて戻れるでしょう」
「ええ……きっとそうね。一日も早いお帰りを、心からお待ちしています」
 花影は|微笑《わら》ったが、どこか泣き出しそうな表情だった。
「ねえ、李斎──私たち、これで良かったのでしょうか」
「……何が?」
「主上がおられない、台輔がおられない、なのにもう国は新しい時代に走り出ようとしています……私、怖くて」
「また?」
 李斎が軽く|揶揄《やゆ》すると、花影は複雑そうに笑った。
「そうですね、私はいつも怖がってばかりいる……」
 李斎は軽く笑った。
「本当に」
「けれども李斎、私は前よりも怖い……。主上は奔馬のような方でした。私は背に|跨《またが》っているのが本当に怖かった。今も国は疾走しています。けれども、私たちが|跨《またが》っているものは、いったい何なのでしょう?」
 え、と李斎は声を上げ、改めて不安そうな花影を見返した。
「たとえどれほど性急に見えても、果敢すぎるように見えても、主上は歴とした戴の国主でいらっしゃいました。台輔の選定を受け、天命を受けて登極されたお方。いわば、天からも認められた|悍馬《かんば》であったことは確実です。けれども、今は……?」
 李斎は少しの間、ぽかんとした。花影は目を|逸《そ》らす。
「私たちはそもそも、|仮朝《かちょう》に慣れている……。|驕王《きょうおう》が亡くなられてから主上が登極なさるまで、ずっと仮朝を支えてきたのですから。だから違和感がなかったのです。でも、日に日に怖くなる。内殿に留まり、|御璽《ぎょじ》の代わりに|白雉《はくち》の足を持つ、あの者はいったい何なのでしょう?」
「しかし……|阿選《あせん》は」
「天命がなかったことは確実です。台輔の|安否《あんぴ》は未だ定かではありません。台輔がおられ──あるいは台輔が|身罷《みまか》られたのであれば、現在の有様はちっとも不自然ではありません。けれども、台輔は本当に亡くなったのですか?」
「だけど、花影」
「鳴蝕があったということは、台輔はあちらへ流されてしまわれたということなのでは。いいえ、単に流されただけならお戻りになるでしょう。だから、戻りたくとも戻ってはこられない──そういうことなのかもしれません。けれども、台輔がどこかにいらっしゃるなら、今のこれは仮朝ではありません」
 花影は顔を|歪《ゆが》める。
「阿選は|偽王《ぎおう》であり、これは|偽朝《ぎちょう》です」
「……花影!」
 李斎は|咄嗟《とっさ》に周囲を見回した。李斎の自室、無論誰の影もない。
「李斎は、主上が文州に発たれて後の噂を覚えていますか」
「文州で轍囲は出来過ぎだ……という」
「ええ。そればりではありません。私はこの頃、もうひとつの噂のほうも気になってならないのです」
「もうひとつ?」
「ええ。主上は|謀《はか》られたのだ、という噂と同時に、これは主上の|謀事《はかりごと》だという噂もありましたね? 主上は王都に残した私たちを処断するために、あえて文州に向かわれたのだ、という。残されて将軍は、|巌趙《がんちょう》殿に|臥信《がしん》に李斎、そして阿選でした。主上があえて阿選の手勢を|割《さ》いて行かれたのは、阿選の兵力を削ぐためではないかと」
「まさか」
「今になって、それが真実だったのではないかと思ったりします。この時期に主上が文州にいらっしゃったのは、そこが轍囲である以上、仕方のないことだったのかもしれません。とはいえ、あえて阿選の軍を|割《さ》く必要があったでしょうか。主上はひょっとして、阿選が|起《た》つことを警戒しておられたのでは」
「しかし……いいえ、|驍宗《ぎょうそう》様は以前、台輔が|漣《れん》に向かわれた時、阿選を副使としておつけになっています。もしも疑いをお持ちなら、そんなことをするでしょうか」
「けれども、|霜元《そうげん》も一緒でしたね? 霜元と|正頼《せいらい》、台輔づきの大僕である|潭翠《たんすい》が同行しています。それぞれが下官を一人連れただけの、たった八人の従者、阿選と麾兵が|邪《よこしま》なことを考えても、いささか行動には移し|難《にく》いでしょう。けれども、これに同行したせいで、阿選は新年の冬狩に参加いたしませんでした。つまりは、あの計画の具体的な詳細を知らされてはいなかったのです。主上はあえて知らせないために、阿選をおつけになったのでは」
 李斎は黙り込んだ。花影の言を|鵜呑《うの》みにしたわけではない。信じたわけではないが、気に引っかかるものがあった。文州に乱を起こし、|轍囲《てつい》を巻きこんで驍宗が出発せざるを得ないようにし向けるやり方、そして、粛正の詳細を知らせないために|泰麒《たいき》を|漣《れん》に向かわせ、その副使として同行させる、というやり方。その両者に、極めて似た臭いを|嗅《か》いだのだ。不自然なほどの自然さ──とでも言うべきもの。
 渦中にあれば、ごく自然にそうなったように見える、当たり前のことに見える。だが、振り返ってみれば自然を装った作為が見える──見えるような気がする。気のせいかとも思うほどの|僅《わず》かな違和感、けれども妙に無視し|難《がた》いその感じが、ひどく似ているように思った。そして、かつて聞いたことがある。驍宗と阿選は用兵家としても似ていた、と。
 ひょっとしたら……と、李斎は僅かに息を呑んだ。李斎も知らない、誰も気づかない水面下で、似たもの同士が互いに互いの足許を|掬《すく》おうとして熾烈な戦いを続けていたのかもしれない。それが水面に、本当に有るか無しかの波紋を起こしていたのではないか。ほとんどの者は見逃すが、中にはそれに気づく者もいる。時に花影が違和感を感じ、時に李斎が引っかかりを覚え──そのように、方々で大勢の者たちが微かな不審を|嗅《か》ぎ取り、それがあの奇妙に錯綜した噂話に発展しはしなかったか。
 李斎は|僅《わず》かに震えた。明後日の未明には|鴻基《こうき》を|発《た》って承州に向かわねばならない。|選《よ》りに選ってこの時期に、承州でまた乱が起こる。残された将軍顔ぶれれを見れば、李斎が承州に向かうことが当たり前のことのように思える──だが。
「李斎……|杞憂《きゆう》ならそれでちっとも構いません。いいえ、私はこれが臆病な私の心根が見せる邪推なのだと思いたい……」
 花影は言って、李斎の手をしっかりと握る。
「無事にお戻りになって。そして花影は本当に臆病者だと笑ってやってください」
 李斎は頷いた。
 その明後日、未明に李斎は鴻基を発った。胸の中に真っ黒な不安を抱えたまま。
 ──そうしてそれが、李斎にとって鴻基の見納めとなったのだった。

   6

 |李斎《りさい》は使い息をついて、手の中の珠を握り|締《し》めた。
「──私は|承州《じょうしゅう》へ向かわねばなりませんでした。|鴻基《こうき》を発ち、半月で|瑞《ずい》州から承州へと入りました。州境を越えて何日目か、幕営に駆け込んできた下官があったのです」

「どうかお助けください。私は殺されてしまいます」
 身を震わせながら言った彼は、|酷《ひど》い身なりをしていた。官吏とは思えない、下層民のような|袍子《のらぎ》姿、|泥《どろ》と|垢《あか》にまみれているのは、浮民の間に入って追っ手の目を逃れようとしたせいのようだった。
「私は春官|大卜《だいぼく》の下官でございます。|二声宮《にせいきゅう》に努めておりました」
 言って彼は|綬《じゅ》を差し出した。綬は三指ほどの幅に作られた組み|紐《ひも》で、その所属する地位によって長さと色が変わる。|褐衣《ぼろ》の懐から取り出した綬は、見れば確かに春官大卜、二声氏のもの。二声氏はその名の通り、二声宮に置いて|白雉《はくち》の世話をする。
「二声氏が、どうして」
「将軍が……確か禁軍の将軍です。禁軍右翼の」
「……|阿選《あせん》」
「はい。確かに|丈《じょう》将軍でした。あの日です──あの大きな災いのあった日の夜、突然、手勢を連れて二声宮に入って来られたのです。被害はないか、官は皆無事かと|仰《おお》せでした。本来ならば大卜の免許がなければ扉を開いてはならないのですが、場合が場合なのでつい開いて将軍を中に入れてしまったのです」
「阿選を?」
「はい、そして丈将軍──阿選は急に踏み込んでこられるなり、いきなり白雉に斬りかかりました。けれども阿選の剣では白雉を切ることは叶いませんでした。剣が素通りしてしまうのでございます。それを悟ると、阿選は私の同輩に命じて|雉《きじ》を連れてこさせました。|郊祀《まつり》に使う|鶏人《けいじん》管轄の雉でございます。同輩は左右を兵士に挟まれ、剣で脅されて鶏人のところへ向かい、雉を持ち帰りました。すると阿選はその雉を殺して足を切り、白雉を壺に|籠《こ》め穴に埋め──」
 言って彼は顔を覆う。
「そしてその場にいた官吏を殺害に及んだのです……」
 彼は辛うじてその場を逃げ出した。鳴蝕で宮が半ば崩れていたことが幸いした。
「私は阿選が入ってきた時から嫌な予感がしていたのです。主上は将軍の誰かを恐れておいでで、文州に向かわれたのもその誰かの執拗な刺客から逃げ出すためだという噂がありました」
「そんな噂が……?」
「はい。それを思い出して、不安でならず、それでできるだけ隅のほうの目立たない辺りへ少しずつ場所を移動していたのです。恐ろしいことが始まって、わたしは瓦礫の間に身を隠しました。すると、そこに穴があって、外に抜け出すことができたのです」
 この若い官吏は付近の混乱と夜陰に|紛《まぎ》れて官邸へと戻ったが、すぐに探しに来る者があった。これも|走廊《つうろ》の下に隠れてやり過ごすことができたが、その時、死体の数が合わない、逃げたはずだと話し合う兵士の声が聞こえたという。
「|命《いのち》からがら、私は宮城を抜け出しました。遺体を運ぶ車の中に紛れこんで、死人のふりをして門を通り抜けたのです。鴻基の外の|冢堂《ちょうどう》の前に落とされたところで、|這《は》い出して逃げ出しました。最初はまっすぐに瑞州の所領へ行ったのですが、そこにも|空行師《くうこうし》の姿が見え、とにかく瑞州を離れようと、浮民の中に混じってここまで逃げてきたのです」
 彼は言って、李斎に|縋《すが》るようにして手を合わせた。
「お助けください。私は阿選に殺されてしまいます。どうか──」
「確かに引き受けた」
 李斎は頷いた。側近に命じ、とにかく休ませるよう言いつけ、くれぐれも姿を見られぬよう、他言せぬよう厳重に言い含めておいた。そして李斎は二通の書状を|認《したた》めると、そのうちの一通を側近に持たせ、鴻基へと向かわせたのだった。乱の平定について助言を請う、という体裁を整え、密書を持たせ、必ず本人に渡すよう、余人が手を触れそうになった場合には破棄するよう厳重に言い含めて、王宮の|芭墨《はぼく》に向けて使者を送った。同時に、元州の|霜元《そうげん》に対しても|青鳥《しらせ》を出した。
 ──阿選、謀反。
 駆け込んできた二声氏は幕内に隠し、李斎は粛々と承州を進んでいった。そして十日後、突然、空行師が舞い降りてきたのだった。阿選軍の|徽章《きしょう》を着けた彼らは、|忌《い》まわしい朱印を|捺《お》した文書を|携《たずさ》えていた。
「二声氏と秘かに通じ、白雉の足を私物化せんと二声宮に踏み込み、官吏を惨殺したことはすでに明白である」
 空行師はそう言い、|挙《あ》げ|句《く》には驍宗を|弑《しい》し、泰麒を弑した、と断じた。
「|劉《りゅう》将軍には宮城へお戻りいただく。無駄な抵抗などして、御名を汚さぬが良かろう」
 二声氏など知らない、勿論いないと言い張ったが、空行師は明らかに李斎の幕営に彼が|匿《かくま》われていることを知っていた。若い官吏は引き出され、その場で有無を言わず切り捨てられた。李斎には手を出さぬ、と空行師は言っていたが、それは軍兵の目があってのこと、|鴻基《こうき》へと連行される途中で殺されることは疑いがなかった。
 李斎がそれを逃れることができたのは、ひとえに空行師が李斎を連行するのに、李斎の騎獣──|飛燕《ひえん》への騎乗を許したからに過ぎない。飛燕の助けを借り、李斎は辛うじて逃げ出すことができた。すでにそこは承州、李斎は承州に知古を数多く持っている。それもまた、李斎の命を永らえるのに一役を買った。
 李斎はその日以来、大逆の罪人になった──。

 李斎は泣きたかった。国賊と呼ばれる以上の屈辱はない。|謂《い》われのない汚名を着て、方々を隠れ住む日々が続いた。知古の多くは李斎を信じ、同情してくれたが、中にはなぜこんな罪を犯した、と責める者もあり、そらには李斎を阿選に引き渡そうとする者もあった。そうでない者の一部は、李斎を匿った罪によって裁かれ、大逆に荷担した罪人として刑場に汚辱にまみれた|屍《しかばね》を|曝《さら》すことになった。
「一年……いいえ、それ以上、ただ隠れ、追撃を逃れるだけの日々が続きました。私がそうして放浪している間に、阿選は宮城に確固とした居場所を築いていたのです。やがて、民の目にも阿選こそが逆賊であったことは明らかになりました。その時にはもう──遅かったのです」
 当時、文州にいた|英章《えいしょう》と|臥信《がしん》はそこで姿を消した。驍宗麾下の多くが国土に散らばり、潜伏し、あるいは秘かに討たれたと聞いた。王宮の内部のことは、全く|窺《うかが》い知ることができなかった。立ち上がって阿選を責める者もあったが、そういった者たちは、|悉《ことごと》く|討《う》たれ、あるいは姿を消す運命にあった。
「阿選は|僅《わず》かでも自身を責める者、主上を|褒《ほ》める者を許しませんでした。|轍囲《てつい》──主上がそもそも阿選に|謀《はか》られることになったあの地は、阿選軍によって一柱残らず焼き払われてしまいました。主上の出身地──|委《い》州の土地も焼かれ、かつて所領であった|乍《さく》県は包囲され、物資を完全に止められて、その年の冬にほとんどが死に絶えたとも聞きます」
 陽子は愕然とした。
「阿選は、そこまで泰王を憎んでいたのか?」
「かもしれません。……分かりません。私はそれまで、そこまでの確執があるようには見えませんでした。秘めていただけ、阿選の憎悪は深かったのかもしれません。しかも、そうやって焼き払われ、冬に捨て置かれて無人となった|里櫨《まちまち》は、なにも主上|由縁《ゆかり》の地に留まりませんでした。阿選を指弾し、阿選に反した土地も、やはり同様の命運を|辿《たど》ったからです」
 待て、と声を上げたのは、黙って李斎の弁を聞いていた延王尚隆だった。
「それでは国土の破壊だろう。阿選は泰王から盗んだ羊を絞め殺そうとしているようなものではないか」
 はい、と李斎は頷いた。
「私もそう思います。阿選が主上を|弑《しい》し、玉座を盗んだのは、自分こそが王として戴に君臨したいからだったはずです。……けれども、私にはそのように見えませんでした。阿選は戴を支配し治めることに興味を抱いていないように見えたのです」
 |驍宗《ぎょうそう》を恨み、驍宗のものを|掠《かす》め取ろうとして起ったわけではない──|李斎《りさい》にはそういう気がしている。|阿選《あせん》が反した動機は、噂に言うように、双璧と呼ばれた片割れが王になり、自分がその臣に下った恨み、などという分かりやすいものではなかったのだろうと思う。だからこそ、誰一人、阿選を疑っていなかった。
 まるで戴を憎んでいるかのようだ、と李斎は感じていた。阿選は自らが治める国土が破壊されていくこと、支配する民が死に絶えていくことを|寸毫《すんごう》も気に留めてないように見えた。それゆえに、阿選に対して打つ手がなかった。
「乱があれば阿選がこれを押さえようとして兵を遣わすだろう、|双方《そうほう》が|睨《にら》み合った隙に何事かできるだろう、などという計略は立てようもありませんでした。乱が起これば大量の兵士を向かわせ、有無を言わさず|里櫨《まちまち》を焼き捨て|反民《はんみん》を殺すだけなのですから。阿選は逃れた反民を追うことすらしません。逃げてまた起てば、また殺すだけ──そんなふうなのです」
「しかし、それでは国は立ち行くまい」
「そのはずです……でも」
 なぜそうなるのかは分からない。それほどの振る舞いをしながら、阿選を支持するものは後を絶たなかった。阿選を恐れて恭順した──それは多分、正しくない。李斎は逆賊として逃げ回り、後には驍宗を捜して戴を奔走した。その途中、阿選に不審を抱く者、反意のある者があれば、これを集め、組織立てて謀反を起こそうとしたが、それはいつも不思議なほど成功しなかった。必ず内部から転向者が出て、|瓦解《がかい》してしまうのだ。昨日まで阿選を指弾し、阿選の非道を声高に叫んでいた者が、翌日には唐突に阿選の支持者になっている。地位の高い者ほどその傾向が著しかった。
「昨日まで反民を保護してくれていた州侯が、突然保護していた我らを阿選に売り、自身は何事もなかったかのように阿選に下って州侯を続ける、ということもございました。自らの州が|蹂躙《じゅうりん》され、民が殺されても、もはやまるで意に介さないのです」
 |病《や》む、という言葉が|囁《ささや》かれるようになった。それは確かに何らかの|疫病《えきびょう》に似ていた。|罹患《りかん》した者は阿選に対する反意をなくす。どんな非道も意に介さず、目の前で何が起ころうと心を動かすことがない。
「洗脳……みたいなものだろうか」
 陽子は|呟《つぶや》く。何かそういう手段で戴を席巻しているのか。いずれにしても、それでは逆賊を倒そうにも手の打ちようがあるまい。
「戴の民には、自らを救う|術《すべ》がありません……」
 李斎は|喘《あえ》いだ。陽子は|慌《あわ》ててその手を握った。
「──大丈夫か?」
 陽子の問いに李斎は、大丈夫です、と気丈にも答えたが、声は|忙《せわ》しない息づかいに途切れ、閉じた瞼には濃い影が落ちていた。
「……もういい。今日はここまでにしよう。とにかく」
 休め、と言おうとした陽子の手を、細く|窶《やつ》れた李斎の指が強い力で|掴《つか》んだ。
「お願いです、……戴を」
 分かっているとも、と陽子は李斎の手を強く握り返す。|浩瀚《こうかん》に呼ばれ、近くで控えていた|虎嘯《こしょう》が駆け込んできた。ここまでにしてくれ、と言われ、陽子は後ろ髪を引かれる思いで|堂室《へや》を出た。
 陽子は尚隆と浩瀚の顔を見る。
「見捨ててはおけない──そんなことはできない」
 陽子、と尚隆は低く|叱咤《しった》する。
「あの有様を見ただろう? あれを見捨てることが許されると思うのか? 見捨てるしかないなんて……そんな王にどんな存在価値があるんだ」
「陽子、そういう問題ではない」
「天は|仁道《じんどう》を|以《もっ》て天下を治めろ、と言ったんじゃなかったのか。ここで戴を見捨てることが仁道に|適《かな》ったことなのか? 天が許さないと言うけれども、それは本当に確かなことなのか? そもそも天はどこにあるんだ。許さないという、その主体は誰だ?」
 天には天の摂理があり、天帝がこれを|統《す》べると言う。だが、陽子は天帝が王に任じるという、その儀式の最中にさえ、天帝を見たこともなければ、声を聞いたこともない。いると言われている、信じられている──天帝の威信が世界を支えていることは承知しているが、誰一人その天帝を見た者などいないのだ。
「ここで慶を守り、戴を見捨てることが王の義務なら、私は玉座なんかいらない」
 陽子は言い捨てて、|庭院《なかにわ》へと駆け下りた。

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